ニュースの概要
Hey! Say! JUMPの山田涼介さんが、メディア出演時に「僕を嗅ぎたいですよね」と自身の香りについて発言し、話題を呼んだ。「香水をつけている芸能人の匂いを嗅ぎたい」というファン心理を逆手に取った軽妙なやり取りだが、ここ数年の香水トレンドのキーワードである「レイヤリング(=香水を複数重ねて使うこと)」や「自分のテーラーメイド香水」の認知拡大と無関係ではない。かつては「特別な日のための香り」だった香水が、いまや自分を表現する日常的なツールとして若年層にも広がっている。コロナ禍以降、マスク着用時に香りを確かめ合う文化が定着したことも、この変化を後押しした。
引用元: 山田涼介「僕を嗅ぎたいですよね」(朝日新聞)
分析・見解
香水市場が「推し活」の文脈で消費される構造
日本のフレグランス市場規模は2023年に約2,800億円と推計され、年率5%前後で伸びている。従来の主役は30代以上の女性だったが、2020年以降は10〜20代の男女にも消費層が拡大した。背景には二つの要因がある。一つは、Z世代=1990年代後半以降に生まれた世代を中心に「身だしなみとしての香水」がSNS=ソーシャル・ネットワーキング・サービスで可視化されたこと。もう一つは、韓国・欧米のアイドル文化を通じて「推し(=応援するアイドルやキャラクター)」と同じ香りを共有する楽しみ方が広がったことだ。今回の山田氏の発言は、アイドル自身がその構造を認識し、嗅覚を「ファンとの距離感」に組み込んでいることを示している。
「嗅ぎたい」は購買行動の入口になり得る
ファン心理として「推しと同じ匂いをまといたい」という欲求は、既にロード(=台湾発の高級アイスクリーム店)アイテム販売などで商品化されている。香水でもファンイベント時に「メンバーがつけた香りを再現する」と銘打つブランドが増え、推し活市場と香水の境界線は曖昧になっている。発言の真意はジョークに近いとはいえ、嗅覚が「憧れの人物と自分を近づける感覚装置」として機能していることは明らかで、香水ブランドのマーケティング担当者はタレント起用時のメッセージ設計に香りを絡めるべき段階に来ている。
個別最適化が次の競争軸になる
2025年前後から、主要ブランドはAI(=人工知能)を用いた「パーソナル香水診断」を本格化している。肌質や体調で香りが変化するため、同じ香水でも人によって印象が変わる。これが逆に「自分だけの匂いを作りたい」という欲求を生み、AI調香ツールや店頭カウンセリングの需要を押し上げている。山田氏の発言のように俳優やアイドルが「自分の香り」を語ることは、消費者にとって「自分だけの香りを探す」という行為の背中を押す効果を持つ。今後は、タレント発信とAI技術の組み合わせが、高級香水市場とカジュアル香水市場の双方を広げると見られる。
嗅覚が「見える情報」になった時代のリスク
一方で、香りの話題化が常態化すれば「職場で周囲を不快にさせるスメルハラスメント」への敏感さも増す。実際、香水販売の現場では「オフィスで使いやすい控えめな香り」への需要が急増している。ブランドは「推しと同じ香り」という強い訴求と、「多様な場面で使える」という汎用性のバランスを取る必要がある。エンターテインメントと衛生感覚、両方の文脈を持つ消費者向けには、香りの強度を段階的に調節できるレイヤリング技術が有力な解決策になるだろう。
ビジネスへの影響
推し活×香水のクロスセル戦略を設計する
小売店やECサイト運営者は、タレント発信の香水を「推し活グッズ」の棚に置くだけでなく、化粧品売り場・レイヤリング特集ページと連動させる導線を作るとよい。例えば、「推しのメンバー別おすすめ香水」「ファンイベント前の香水選びガイド」といったコンテンツは今後も伸びる。重要なのは、香水を「香り」だけで売るのではなく、「推しとの関係性を深めるツール」としてストーリーを添えることだ。山田氏の発言のような軽い話題も、ファンコミュニティでは長く共有されるため、コンテンツ寿命が長い素材になる。
オフィス対応という新セグメントを商品ラインに追加する
スメルハラスメントへの感度の高まりを受けて、「仕事場向けライン」を新設するブランドが増えている。アルコール濃度が低く、香りの拡散が穏やかな処方は単価が通常品より1.2〜1.5倍高く設定される傾向があり、利益率の改善にもつながる。企画担当者は、「推しと同じ匂いを楽しみたいが、職場では控えめにしたい」という相反する要望を、ローションと香水を分ける、あるいは二段階に重ねるレイヤリング商品で解決できる。すでに有名ブランドでは「日中用・休日用」を1キットで提案し、リピート率が20%以上向上した事例がある。
AIカウンセリングと店頭体験の両輪で差別化する
AI診断は便利だが、香水は最終的に自分の鼻で確かめる必要がある。ECサイトではAI診断を入り口にして「最も近い香りを3つ提案→サンプルを送る→購入」というステップを組み込むことで、カゴ落ち率を下げられる。実店舗ではカウンセリング要員の教育が必須で、嗅覚のプロによる「骨格診断」のような付加価値がチェーン店との差別化ポイントになる。山田氏の発言のようなタレントコンテンツと、AIによる個別提案、店頭での体験設計を組み合わせれば、香水の購入単価と購入頻度の両方を引き上げることが可能だ。今こそ、ブランドは「香り」だけでなく「嗅覚を通じた顧客体験」全体を売る視点に立つべきである。