ニュースの概要
香料関連企業のScent Emotionsが、デジタル変革の取り組みとして「Scent Emotions NEXUS」を紹介した。同社のニュースページで確認できる範囲では、仕組みの細かな仕様や導入企業、料金などは示されていない。また、レイヤリング(=香りの重ね付け)向けの新商品や、特定ブランドとの提携が発表されたわけでもない。つまり現時点で読み取れるのは、香りに関わる業務や情報の扱いを、デジタル面から強めようとする同社の方向性までである。一方、フレグランス市場では、消費者が複数の香りや剤形を組み合わせ、気分や場面に応じて使い分ける傾向が強まっている。本稿では、この二つの流れを結びつけて読み解く。
引用元: Scent Emotionsが香料業界向けデジタル変革基盤NEXUSを紹介(Scent Emotions)
分析・見解
公開情報から読み取れる範囲と、まだ見えない部分
今回の発表で確かなのは、Scent Emotionsが「NEXUS」というデジタル変革の枠組みを打ち出したことである。機能の一覧も、導入企業の事例も、効果を示す数字も、公開ページからは確認できない。
こうした場面では、名前から中身を想像しすぎないことが大切だ。nexusは英語で「結び目」「つなぎ目」を意味する。ばらばらの情報をつなぐ狙いがうかがえるが、それはあくまで推測にとどまる。同じ時期に、重ね付け向けの新商品や提携が発表されていない点も押さえておきたい。業界の流れと同社の動きを一続きの話として語るのは、慎重であるべきだ。
香りの仕事で、情報が散らばりやすい理由
香料の仕事では、処方(=香りの配合表)、原料の規格、安全基準、顧客の感想など、性質の違う情報が重なる。しかも香りは言葉にしにくい。「少し甘く、奥に木の気配」といった表現は、担当者ごとにずれる。
その結果、依頼の受付から試作、改良、納品までの履歴が、個人の経験やメールの中に埋もれやすい。紙の指示書と電子データが併存している現場も少なくない。基盤を整える価値は、新しい香りを生むことよりも、過去の試行を探せる形にして使い回せることにある。
重ね付けの広がりが、記録の細かさを求める
消費者が複数の香りや剤形(=液体、練り、ミストなどの形)を組み合わせる使い方は、香料側に新しい宿題を出す。単品で良い香りでも、他の香りと混ざったときや、時間がたったときにどう変わるかが問われるからだ。さらに、香りの重なりは肌の状態や気温でも変わる。
たとえば4種類の香りから2つを選んで重ねるだけで6通り、3つなら4通りになる。ここに剤形の違いが加わると、担当者の勘だけで相性を管理するのは難しい。相性の評価を記録して検索できる状態にしておくことが、商品企画の速さに直結する。
競争の本当の分かれ目は、香りをどう言葉にするか
筆者が注目するのは、仕組みそのものより、そこに入れる情報の質である。香りの強さ、広がり方、持続時間、使われた場面を、誰が見ても同じ意味になる形で残せるか。ここが曖昧なら、どれだけ立派な基盤でも検索結果は役に立たない。言い換えれば、デジタル化とは機械を入れることではなく、感覚を共通の言葉に直す作業である。
食品や飲料の開発では、人の感覚による採点(=官能評価)を共通の尺度で蓄積し、新商品づくりの手戻りを減らす手法が広く使われている。香りでも同じ道筋は考えられる。ただしNEXUSがそこまで担うのかは、現時点では不明である。追加の発表を見て判断したい。
ビジネスへの影響
まず自社で整えたい、香りの記録の三つの型
NEXUSの詳細を待たなくても、今日から始められることがある。一つ目は、香りの表現を10語ほどの共通語に絞ること。二つ目は、試作ごとに、重ねた相手と評価を同じ書式で残すこと。三つ目は、顧客の声を商品名ごとに集めることだ。表計算ソフトでも十分に始められる。
重ね付けを売りにするブランドは、組み合わせの提案ページを作る段階で、この記録が効いてくる。どの組み合わせが好評だったかを、感覚ではなく件数で語れるようになるからだ。記録の型が決まっていれば、後から外部の基盤に移すときの手間も小さくなる。
外部の基盤を選ぶ前に確かめる四つの点
導入を検討するときは、次の四点を確認したい。データの持ち主は誰か。契約を終えるとき、データを取り出せるか。処方のような機密情報をどう守るか。現場が毎日入力し続けられる手間か。特に機密の線引きは、香料会社と取引先の間で先に決めておく必要がある。
情報が整っていない段階で大きな仕組みを入れると、入力されないまま放置されがちだ。まずは一つの商品群で3か月ほど試し、記録が検索に使われた回数で効果を見るのが現実的である。
小規模事業者だからこそ先に動ける余地
独立系ブランドや香りの体験教室を運営する事業者は、大きな基盤を持たなくても差をつけられる。来場者がどの香りを重ねたか、どんな気分や場面を選んだかを記録すれば、それが次の商品の種になる。大手が基盤づくりに時間をかけている間に、現場の声を素早く商品に反映できるのが小さな事業者の強みだ。
ただし、個人の好みに関する情報を集める場合は、使い道を伝えて同意を得ることを忘れてはならない。あわせて、NEXUSの続報を定期的に確認し、自社の記録方法と接続できるかを見極める姿勢も欠かせない。